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最高裁判所第一小法廷 昭和57年(行ツ)166号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人山根喬、同上口利男の上告理由について

論旨は、要するに、原判決が、本件統一行動が争議行為たる同盟罷業に当たらないとしたのは、争議行為の意義を正解せず、法令の解釈適用を誤つたものである、というのである。

休暇日を労働者がどのように利用するかは、本来当該年次休暇の成否に影響するものではないが、当該事業場における業務の正常な運営の阻害を目的として、年次休暇権を行使するとして職場を離脱する態様のいわゆる一斉休暇闘争は、本来の年次休暇権の行使ということはできず、年次休暇に名を藉りた同盟罷業というべきであり、当該時季指定日に年次休暇関係が成立する余地はない(最高裁昭和四一年(オ)第八四八号同四八年三月二日第二小法廷判決・民集二七巻二号一九一頁、同昭和四一年(オ)第一四二〇号同四八年三月二日第二小法廷判決・民集二七巻二号二一〇頁参照)。けだし、右のような職場離脱は、たとえ年次休暇権行使の形式をとつていても、その目的とするところは、使用者の時季変更権を全面的あるいは部分的に無視することによつて当該事業場の業務の正常な運営を阻害しようとするところにあるのであつて、そこには、そもそも、使用者の適法な時季変更権の行使によつて事業の正常な運営の確保が可能であるという、年次有給休暇制度が成り立つているところの前提が欠けているからである。そして、右の休暇闘争の態様が当該事業場の労働者の一部のみが参加する、割休闘争と称されるものの場合であつても、それが、同様に当該事業場における業務の正常な運営の阻害を目的とするものであれば、同盟罷業となりうるのである。

ところで、原審の認定した事実関係は、(1) 被上告人らは、本件統一行動当時いずれも北海道立夕張南高校の教諭で、北海道教職員組合(以下「北教組」という。)所属の組合員であつた、(2) 総評は、昭和四〇年四月二〇日に春闘第三波統一行動を行うことを計画し、また、公務員共闘会議は、ILO八七号条約批准に伴う関係国内法改悪阻止、団体交渉権の奪還、大幅賃上げ等を標榜し、これを要求する全国統一行動を同日実施することを計画した、(3) 北教組は、右統一行動の一環として要求貫徹集会及びデモ行進を実施することを企画し、右四月二〇日午後一時から組合員の三割を動員して、各地区労の主催する集会等に参加させることとし、これに参加する組合員は所定の様式に従つた休暇届を提出するよう指示した、(4) 右三割動員の指示は、適法な時季変更権の行使があつた場合にも、各職場の組合員の三割の者があえて職場を離れて集会等に参加することまで指示したものではなかつた、(5) 被上告人らは、北教組の右指示に従い、同日午後一時から半日を年次休暇の時季として指定したが、当時、被上告人林貞晴は社会、同柴田有三及び同紙谷昭緒は数学、同藤原彪は商業、同斉藤信義は国語の各教科を担当しており、同日午後にはいずれも一時間宛授業を担当する時間割となつていたところ、あらかじめ、授業の振替、自習課題用印刷物の配布及び指導を他の教諭に依頼するなどの手当をしておいたうえ、本件統一行動に参加した、(6) 夕張南高校以外の学校においては、本件統一行動に参加したほとんどの者について時季変更権の行使はされず又は職務専念義務免除の承認がされている、というのであり、以上の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、是認しえないものではない。

原審は、右のような本件の事実関係のもとにおいては、北教組の本件統一行動参加についての指示は、結局のところ、適法な時季変更権の行使があつた場合にこれを無視して集会等に参加することまで指示したものでなく、各事業場における業務の正常な運営の阻害を目的としたものであるとまでいうことはできないとしたうえで、被上告人らが北教組の右指示に従つて本件統一行動に参加するため年次休暇の時季指定をして就労しなかつたことをもつて、年次休暇に名を藉りた同盟罷業ということはできず、また、四月二〇日午後半日についての時季指定に対する校長の時季変更権の行使が、労働基準法三九条三項但書所定の事業の正常な運営を妨げる事情が認められないという点からも、適法でなかつた以上、右半日につき被上告人らの年次休暇は成立し、就労義務は消滅していたということになるから、被上告人らの本件不就労は地方公務員法三二条及び三五条に違反するものではなく、これが右各条項に違反し同法二九条一項一号及び二号に該当することを理由としてされた本件各戒告処分はその前提を欠く違法なものである旨判断しているのであつて、原審の右判断は、年次休暇権の行使と争議行為との関係につき前示したところに照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の前記事実認定を非難するか、又は右認定にそわない事実を前提として原判決を論難するに帰し、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大内恒夫 裁判官 谷口正孝 裁判官 角田禮次郎 裁判官 高島益郎)

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